ブルンストロームステージ完全判定法|上肢・下肢の見極めと臨床の要点
脳卒中片麻痺のリハビリテーション現場において、運動機能障害の回復度合いを客観的に把握する指標として広く用いられている「ブルンストロームステージ(Brunnstrom Stage / BRS)」。臨床実習を控えた学生から経験の浅いセラピストまで、「ステージⅢとⅣの境界線が曖昧」「手指の細かい分離運動をどう判断すべきか」と判定に頭を抱えるケースは少なくありません。
運動麻痺の正確なアセスメントは、適切な介入プログラム立案や目標設定、さらにはチーム医療における情報共有の根幹を支えます。本稿では、上肢・手指・下肢におけるステージⅠからⅥまでの明確な判定基準や臨床での見極めポイント、さらに国家試験対策にも役立つ効率的な整理法まで、リハビリ専門職の視点からわかりやすく徹底解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:ブルンストロームステージは脳卒中片麻痺の回復過程を「弛緩」から「協調動作の獲得」まで6段階で捉える標準的評価指標。
- 要点2:上肢・手指・下肢で独立して判定を行い、共同運動パターンから分離運動へ移行する境界(ステージⅢ〜Ⅴ)の見極めが極めて重要。
- 要点3:代償動作を排除した正確な評価が、予後予測やロボットリハビリ・電気刺激療法などの個別介入設計に直結する。
【脳卒中片麻痺の回復過程】ブルンストロームステージの基礎概念と位置づけ
ブルンストロームステージは、スウェーデンの理学療法士シグネ・ブルンストローム(Signe Brunnstrom)が提唱した、脳卒中片麻痺の回復過程を体系化した評価法です。脳血管障害によって中枢神経系が損傷を受けると、随意運動機能は一時的に完全に消失(弛緩)しますが、その後、原始的な反射や異常な筋緊張を伴いながら段階的に回復へと向かいます。
この回復プロセスは、基本的に以下の特徴的な推移をたどります。
1. ステージⅠ(弛緩期):随意運動が一切出現せず、筋緊張も低下した完全弛緩状態。
2. ステージⅡ(共同運動の出現):わずかな随意運動や連合反応がみられ、痙縮が出現し始める。
3. ステージⅢ(共同運動の完成):痙縮がピークに達し、意図的な運動はすべて屈曲または伸展の共同運動パターンに支配される。
4. ステージⅣ(分離運動の開始):共同運動パターンから一部逸脱した運動(半分離運動)が可能になり、痙縮が軽減し始める。
5. ステージⅤ(分離運動の進行):共同運動からほぼ独立した複雑な随意運動が可能となり、協調運動の精度が増す。
6. ステージⅥ(協調運動の正常化):痙縮がほぼ消失し、個々の関節が個別にスムーズに動作できる。素早い動作でのみわずかな拙劣さが残る。
臨床現場では、患者が現在どのステージに位置しているかを把握することで、単なる筋力訓練ではなく、神経回路の再構築を意図した治療的アプローチを選択する羅針盤となります。
【判定基準一覧】上肢・手指・下肢におけるステージⅠ〜Ⅵの評価方法
ブルンストロームステージの判定基準は、上肢・手指・下肢の3部位に分かれており、それぞれ独立してステージを判定します。手指は上肢の全体運動とは独立した精密な制御が求められるため、別枠で細かく評価する構造になっています。
各部位における具体的なブルンストロームステージの評価方法と動作基準は次の通りです。
【ブルンストロームステージ 上肢の評価基準】
・ステージⅠ:随意運動なし。
・ステージⅡ:屈曲または伸展の共同運動がわずかに出現。
・ステージⅢ:座長位などで屈曲共同運動(肩外転・肘屈曲・前腕回外)または伸展共同運動が意図的に可能。
・ステージⅣ:①手を腰の後ろに回す(腰背部への手掌接触)、②肘伸展位で肩関節90度屈曲(前方挙上)、③肘90度屈曲位での前腕回内外。
・ステージⅤ:①肘伸展位で肩関節90度側方挙上(外転)、②肘伸展位で肩関節完全挙上(頭上へのリーチ)、③肘伸展位での前腕回内外。
・ステージⅥ:各関節の完全な分離運動が可能。正常側に近いスピードでスムーズな動作ができる。
【ブルンストロームステージ 手指の評価基準】
・ステージⅠ:随意運動なし。
・ステージⅡ:わずかな指の屈曲がみられる程度。
・ステージⅢ:集団握り(全指の屈曲握り)が可能。意図的な伸展・母指伸展は不可。
・ステージⅣ:側腹つまみ(キーピンチ)が可能。わずかな全指の伸展動作が出現。
・ステージⅤ:対立つまみ(指腹つまみ・球把握・円柱把握)が可能。個別運動や完全伸展が可能。
・ステージⅥ:全指の独立した完全な分離運動、ジャンケンの「チョキ」や指の素早い屈伸動作が可能。
【ブルンストロームステージ 下肢の評価基準】
・ステージⅠ:随意運動なし。
・ステージⅡ:わずかな下肢の随意運動が出現。
・ステージⅢ:座位または仰臥位で、股・膝・足関節の同時屈曲(屈曲共同運動)や伸展共同運動が可能。
・ステージⅣ:座位で膝関節90度屈曲位を保ちながら足を後方に引く動作、足関節背屈(踵を床につけたまま前足部を上げる)。
・ステージⅤ:立位での股関節伸展位における膝屈曲動作、立位での踵を浮かせない足関節背屈動作。
・ステージⅥ:座位での下腿の内外旋を伴う回旋動作、立位でのリズミカルな協調運動。
臨床で迷わない「分離運動の判定」と共同運動パターンからの脱却サイン
臨床現場で最もセラピストが判定に悩むのが、「ステージⅢ・Ⅳ・Ⅴの境界線」です。特に患者が代償動作を使った場合、本来の随意的な分離運動の判定を見誤りやすくなります。
見極めの核心は、「拮抗する筋群が異常な共同収縮を起こさず、主動作筋のみが単独で働いているか」という点にあります。
例えば上肢のステージⅣのテストである「肩関節90度前方挙上」を実施する際、肘が曲がってしまう(屈曲共同運動が混入する)、あるいは体幹を過剰に後傾させて代償している場合はステージⅣとは判定できません。肘を完全に伸ばした状態で肩関節を前方へ挙上できて初めて「分離の兆候」とみなされます。
手指においても、物を掴むこと(屈曲)はできても自力で離せない(伸展不能)場合はステージⅢに留まります。鍵をつまむような側腹つまみと、わずかでも自力で指を開く運動が伴って初めてステージⅣへのステップアップが認められます。体幹や周囲の関節のアライメントを厳格に保持させた状態でテストすることが、信頼性の高い判定を下すための鉄則です。
理学療法・作業療法での活用|評価表の記載と他指標との違い
理学療法の運動麻痺評価や作業療法の評価表への記録において、ブルンストロームステージは「BRS 上肢Ⅳ / 手指Ⅲ / 下肢Ⅴ」のように3部位を併記するのが一般的です。ただし、近年ではより客観的かつ詳細な定量的評価との組み合わせがスタンダードとなっています。
ここで整理しておきたいのが、他の代表的な評価バッテリーとのブルンストロームステージとの違いです。
・FMA(Fugl-Meyer Assessment):ブルンストロームの概念を基盤に作られた、より詳細な点数制(上肢66点・下肢34点)の運動機能評価。ステージの「間」にある微細な変化を点数で追跡できる。
・SIAS(Stroke Impairment Assessment Set):運動麻痺だけでなく、感覚、関節可動域、筋緊張、空間認知まで網羅的に短時間で点数化する総合的脳卒中機能評価。
・MAS(Modified Ashworth Scale):痙縮の程度(抵抗感)そのものを0〜4のスケールで評価する指標。
ブルンストロームステージは、「短時間で回復段階の大枠を把握できる」という抜群の利便性を持つ一方、各ステージ内の小さな質的改善(可動域の広がりやスムーズさの向上)を捉えにくいという特性を持ちます。そのため、カルテ記載や初期評価のスクリーニングとしてはブルンストロームを用い、日々の細かな介入成果の検証にはFMAや動作分析を併用するのが現代の標準的アプローチです。
国家試験対策にも直結!ブルンストロームステージの効率的な覚え方
PT・OTの国家試験において、ブルンストロームステージは頻出中の頻出項目です。丸暗記しようとすると混乱しがちですが、「身体の中心(近位)から末梢(遠位)へ、全動作から個別動作へ」という運動発達の法則に沿ってロジカルに整理すると一気に記憶が定着します。
効率的なブルンストロームステージの覚え方として、各ステージのキーワードを以下のように対比して押さえるのが有効です。
・Ⅰ(無・弛緩):ピクリとも動かない
・Ⅱ(始・わずか):共同運動や痙縮がスタート
・Ⅲ(強・全屈伸):共同運動が最大化、塊としてしか動かない
・Ⅳ(半・逸脱):共同運動から抜け出す動作が3つ(上肢:腰後ろ・前挙上・回内外)
・Ⅴ(離・独立):ほぼ自由に動かせる(上肢:側方外転・頭上挙上)
・Ⅵ(速・正常):個別動作が高速かつスムーズに完了
国家試験の問題では、「座位で膝90度屈曲位を保ちながら足を後方に引くテストは何の評価か?(正解:下肢ステージⅣ)」といった、具体的な肢位と動作の組み合わせが問われます。テスト動作の目的が「どの共同運動パターンの抑制を求めているか」を結びつけて理解することが得点力向上の最短ルートです。
【2026年最新知見】脳卒中リハビリの現場で求められる見極めの注意点
ニューロリハビリテーションの進化に伴い、運動麻痺の評価に対する臨床的アプローチもアップデートされています。かつては「ステージⅢの共同運動を強化してから次の段階を目指す」という考え方も存在しましたが、現在では「異常な共同運動パターンの過度な定着は、かえって分離運動の獲得を阻害する」という認識が定着しています。
近年の臨床で特に注意すべき点は以下の2点です。
1. 代償動作の早期是正:ステージⅣ〜Ⅴの移行期において、肩甲骨の過度な挙上や体幹の側屈による「みかけの可動域」をステージアップと誤認しないこと。
2. 機器介入との連動判定:ロボットスーツ(HALなど)やIVES(随意運動介助型電気刺激装置)、経頭蓋磁気刺激(TMS)を併用する際、客観的なステージ判定に基づいて最適な治療パラメータを設定すること。
ただ漫然とテストを行うのではなく、「どこで痙縮のブレーキがかかっているか」「どの筋が分離を妨げているか」という神経生理学的なメカニズムを読み解く姿勢が求められています。
【ブルンストロームステージ】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ブルンストロームステージとFMAの違いは何ですか?
A1:ブルンストロームステージは回復過程をⅠ〜Ⅵの6段階で大まかに把握する定性的な評価法です。一方、FMA(Fugl-Meyer Assessment)はブルンストロームの理論をベースに各関節の動きを細かく点数化(0〜2点の加算方式)した定量的な評価法です。臨床では全体像の把握にブルンストロームを用い、微小な改善の追跡や研究データ収集にFMAを活用する使い分けが一般的です。
Q2:上肢と手指でステージが異なる場合、カルテや評価表にはどう記載しますか?
A2:上肢、手指、下肢は神経支配や機能特性が異なるため、必ず分けて記載します。例えば「BRS 上肢:Ⅳ、手指:Ⅲ、下肢:Ⅴ」のように個別の到達段階を明確に示します。手指は上肢全体の運動よりも回復が遅れる傾向が多く見られます。
Q3:ステージを飛び越えて一気に回復することはあるのでしょうか?
A3:軽微な脳梗塞や超急性期の血栓溶解療法(t-PA・血栓回収療法)によって急速に血流が再開した場合などでは、ステージⅡやⅢをほとんど経ずに一気にⅤやⅥへ改善するケースが存在します。ただし、中等度〜重度の片麻痺では基本的にⅠから順を追って回復過程を進むのが典型的なパターンです。
まとめ:的確なステージ判定が導く最適なリハビリテーション
ブルンストロームステージは、脳卒中片麻痺患者の機能回復状況を瞬時に共有し、適切なリハビリテーション戦略を組み立てるための基礎となる評価指標です。
単にⅠ〜Ⅵの数字を割り振る作業に終わらせるのではなく、共同運動と分離運動のバランス、拮抗筋の緊張状態、そして代償動作の有無を深く洞察することが、患者一人ひとりに合わせた最善の治療アプローチへとつながります。基礎的な判定基準を正しくマスターし、日々の臨床や学習にぜひ役立ててください。 (出典: ブルン ストローム ステージ(Yahoo!ニュース))